Day 1–30:設計と単独テスト 最も発注頻度の高い1品目に絞ってフォームを作ります。ここでの唯一の設計原則は、必須項目を5つ以内にすることです。項目を増やすほど入力率は落ちます。「あったら便利」は全て任意項目にしてください。この30日間、取引先には一切案内しません。社内の1名だけがテスト入力し、既存の電話受注は通常どおり続けます。
Day 31–60:取引先3社で並走 発注頻度が高く、関係の近い3社に依頼します。依頼の言い方が成否を分けるので、「システムを導入したので使ってください」ではなく、「発注のたびに電話でお待たせしているので、フォームでも受けられるようにしました。お好きなほうで結構です」と伝えてください。電話は止めません。並走させます。
Day 61–90:展開と例外処理化 残りの取引先へ案内を送り、電話受注を「例外」の位置づけに変えます。ここで重要なのは、電話で受けた注文も必ず同じ台帳に入力するというルールです。記録の置き場所が2つあると、結局どちらも信用されなくなります。判定は、受注全体の7割がフォーム経由になっているかどうかです。
Q. 取引先が高齢で、フォーム入力ができないと言われます。 A. その取引先は電話のまま残してください。全社をフォーム化する必要はありません。上位数社が移行するだけで、受注件数ベースでは大きな比率が動きます。目標は「全員の移行」ではなく「件数の7割」です。
Q. 専用の受発注システムやEDIを導入したほうが早くありませんか。 A. 最終的にはそうなる可能性がありますが、順序が逆です。フォームで3か月運用すると、自社に必要な項目・承認フロー・例外パターンが具体化します。その要件定義を持たずにシステム選定に入ると、使わない機能に費用を払うことになります。フォーム運用は、要件定義の実地調査を兼ねています。
Q. AIを使ったほうが効果は大きいのではないですか。 A. 併用は可能ですが、順番があります。中小機構の調査ではAI活用が前年比14.1ポイント増と伸びていますが、AIが力を発揮するのは、データが構造化された状態で蓄積されている場合です。電話メモと個人のExcelが散在している状態では、AIに渡す材料そのものがありません。フォーム化は、その材料をつくる工程にあたります。
Q. 90日で終わらなかった場合はどうしますか。 A. 延長するのではなく、どのフェーズの判定で止まったかを確認してください。Day 30の判定で止まったなら設計の問題、Day 60で止まったなら取引先との関係づくりの問題で、打ち手が全く異なります。期間を延ばすだけでは、同じ場所で止まり続けます。
Q. Excelやスプレッドシートで足りますか。専用の見積システムが必要でしょうか。 A. 最初はスプレッドシートで十分です。標準化の本質はツールではなく、単価と計算式を人の頭の外に出すことにあります。運用が定着し、案件数や版管理が手に負えなくなった段階で専用システムを検討するほうが、失敗が少なくなります。
Q. ベテランが協力してくれません。 A. 「あなたのやり方を記録させてほしい」という頼み方は、多くの場合うまくいきません。代わりに、過去見積のばらつきデータを見せて「同じ工事でこれだけ差が出ている理由を教えてほしい」と入り口を変えると、説明のほうから始まります。標準化ではなく、解説をお願いする形です。
Q. 標準化すると、安く見積もりすぎて利益が減りませんか。 A. 逆の結果になることが多いです。属人見積では、忙しさや相手の圧力で無意識の値引きが入ります。標準額を先に出し、そこから下げるときだけ理由を書かせる設計にすると、値引きの総額はむしろ縮小します。
Q. 効果はどう測ればよいですか。 A. 着手前に2つの数字を記録してください。同一工種の見積単価の標準偏差と、見積1件あたりの作成時間です。3か月後に同じ条件で測り直せば、定着したかどうかが数字で分かります。